漫画、猫人間暮らし。

猫の母娘(ちよ、くー)、ハムスターのひまわり、人間のふわふわしたコマ漫画です。あとイラストや雑記。人間が若干患いがちな為、字が読みづらいと言うことは平身低頭にてお詫び致します、、!

ラピスラズリの法※GL小説

 瑠璃の名を冠した国がある。


 小さな島国ながらも独立国家として発展を遂げ、人々は豊かに平和な暮らしを送っている。



 しかしその国には、他国には見られない一種独特の刑罰が定められていた。



 死刑執行を、受刑者の一番愛しい者の手に委ねられるのだ。


 切なくも美しい光を放つその刑法は、国名に因んでラピスラズリの法と呼ばれた。


 此れはそんな瑠璃の国に生まれた、ある恋人達のお話。







「あたしには…出来ない…」



 簡素な面会室。


 小麦色の健康的な肌を蒼白に染めて、エンジは掠れた声で言った。


 涙腺も声帯も、既に干からびていた。



「…うん…ごめんね。でも、決まりだから」



 そう言って、メノウは彼女の頬をそっと、ガラス越しに撫でてやる。


 罪人とって、愛しい人に触れられないのも、重い罰だった。



「…どうして、あんな事したのよ…!アンタは、何も関係なかったのに…っ」



「エンジ」



 それ以上は言うなと、メノウは彼女の名前を強く呼ぶ。



「だって!あれはあたしが悪いんだ!あたしが軽率な行動をとったせいでアンタが…」



「貴女は何も悪くないのよ。悪いのは、彼等と…私なんだから…」



 ね?と笑って見せても、彼女の表情は優れない。



「…どうして、あんな馬鹿な事したの…?」



 彼女はまた同じ質問を繰り返した。



「…それは、貴女が此処に呼ばれた理由と、一体何が異なるのかな?」



「…っ!」



 メノウの言葉に、エンジは眼をポロリと零すのではないかと心配になる位大きく見開く。

 






 罪人による、ラピスラズリの法に則る死刑執行の依頼。



 それは則ち、告白でもあったのだ。

 


「…だ、だから…だから!奴らを殺したって言うの!?」



 得体の知れない物でも見るかの様な視線で、エンジは声を震わせる。



「そうよ」



 彼女の様子とは裏腹に、メノウは冷静に返した。


 こうなった以上、何一つ偽る必要はなかったから。



 あの夜――目の前いる少女が、薄汚い男共に犯されそうになった。


 それを偶然見た私は、一人の殺人鬼と化したのだ。



「そうだよって…何でアンタそんなに落ち着いてられるのよ!アンタ、あたしのせいで死ぬんだよ!?しかもあたしに殺されるんだぞ!?ちゃんと解ってんの!?」



「貴女こそ、キチンと理解出来てるの」



「な、何が…」



「私の、気持ちよ」



「…!!」



「…私は、貴女を汚した彼らを殺した。そして今、私は貴女に死刑執行を頼んでいる。…さあエンジさん、導き出される答えは?」



 ニッコリと、メノウは教壇に立つ時の顔を見せる。



「…こんな時に…教師面すんなよ…」



 項垂れてエンジが言った。



「…ごめんね。けれど、私には貴女しかいないから。私を殺せるのは、貴女だけだから」

 


「…殺すとか言うな。アンタズルいよ…言いたい事だけ言って…」



「エンジ…。やはり引き受けては、貰えないかな?」

 

 死刑を執行できるのは、想いが通じ合った『恋人』だけだった。


 いくら受刑者が想いを寄せていても、相手に同等以上の気持ちが認められなければ成立しないのだ。


 一生消える事のない傷を負える程に、愛してくれる者でなければ。



 死の重責は、決して軽易な物ではないから。




「……………あたし…は」



『お時間です』



 冷淡な機械音が、二人の会話を遮った。


 時間が来ると、互いの声は一切聴こえなくなる。


 エンジは開きかけた口を噤んで、乱暴に面会室を後にした。




「…ふられたかなぁ…」



 独りになった空間は、いつもより虚無に感じられた。

 


 死刑執行当日。


 メノウはこの国を象徴する瑠璃の宝石で彩られた小部屋に連れて行かれた。


 刑を引き受けてくれる人間がいない場合は、此処でガスにより安楽死の方法がとられる。




『ふられましたか?』




 不意に、この場にそぐわぬ剽軽な声が耳に飛び込んで来た。

 刑務所に入って初めて聞く、不思議な訛りを含んだ声だ。



「…ええ。まあ、考えてみれば虫の良い話ですよね。人を殺した愚かな罪人が、最期を好きな人に片付けて貰うなんて…」



 メノウは嘲笑って答える。



『そうですかねぇ?ああ、一応時間ギリギリまで待ちますから』



「…必要ないですよ。きっと…無駄です…」



『そうですかねぇ?』



 と、先程と同じ調子で刑務官が軽く返したその時だった。







「メノウッ!!!!」




 焦がれた人が、真っ直ぐにメノウの元へ現れたのは。

 


「はあ…!まだ…まだ大丈夫だよね!?」



『ええ。ああ、道具は一応椅子の下に用意してありますから、どれでもご自由に~』



 ブチッと音を立てて、声は途切れた。



「…来て…くれたのね…っ」



 彼女の姿が幻ではないかと、メノウはギュッとエンジを抱き締める。


 遮る物など何もない、愛しい人の熱。



「…あたし…馬鹿だけど、馬鹿なり考えたよ…。今行かないで一生後悔するのと……アンタ…を殺し、て…一生…後悔するのと…」



 メノウの肩に顔を押し付けて、エンジは絞り出す様に話し出した。



「…エンジ…」



「どっちが重いかは、きっと…後者だと思う。だって、あたしはきっと忘れない。アンタを手に掛ける感覚を…アンタの苦しむ顔を…でも…」



 小石を詰まらせて、彼女が一瞬言い淀む。


 けれどすぐに顔を上げて続けた。

 


「…気付いたんだ。あたしは、そんな痛みも全部背負って行きたいって…きっと後悔はする。でも、それでいいんだ…。それが、いいんだ…」



 そう告げて、濃い睫毛で縁取られたエンジの瞳に泉が生まれた。



「…メノウ……あたしで、いい…かな?」



「…言ったでしょう?貴女じゃなければ、駄目なの。…ただ一人、愛する者でなければ、私を殺す事は出来ない…エン」




『お時間です。…刑を執行して下さい』



「…っ!」



 先の人物とは違う、若干の体温を帯びた機械音が、腕に抱かれたエンジの躯をビクリと震わせた。



「…エンジ」



 怯えるエンジを宥める様に頬を撫でてやるも、その華奢な存在こそが、メノウに最期の気持ちを伝える勇気をくれる。



「……愛してるわ、エンジ」



 覚悟を決めたその言葉に、エンジはしがみつくようにして、メノウへの抱擁を強くする。




 言ったら終わりなのだと、警告する様に。



 それでもメノウはふわりと微笑み、エンジの小さな唇に想いを寄せた。




 二人の、最初で最後の交わりを。



 永遠にも一瞬にも感じられる時の後そっと距離をとると、エンジは必死に嗚咽を堪えながらも、真っ直ぐにメノウを瞳に捕らえた。



 死刑執行の、合図として。



 エンジも、メノウの一番欲しかった想いを紡ぐ。

 



「…あたしも、愛してる。ずっと、これからもずっと…愛してるから…だから…っ」



 そう言ってエンジはメノウの首に手をかけた。



 涙に濡れた優しい笑顔で。



 そしてメノウもまた、エンジの表情を映して笑う。





 ……愛してるわ……




 そう息絶えるまで囁きながら。







 瑠璃色に照らされた二人は、一枚の風景の様に美しかった。







「…所長。鼻水垂れてますよ。大変見苦しいです」



「イヤイヤ。これ涙の延長やからね」



「そんな粘っこい涙ありません」



「…相変わらずソーダちゃんは手厳しいなあ。しかしあの二人綺麗や思わへん?調和がビタッととれてて、シンメトリーみたいやん」



「…私は、ただ哀れとしか思えません。受刑者は幸福かも知れませんが、残された方はこれからどんな気持ちで生きて行くのか…」



「優しいもんなあソーダちゃん。せやけど、アタシはええと思うよ」



「…所長は自分大好きな楽天主義者ですからね」



「アタタ。ま、それもあるけど…。アタシは、いややな。こんなボタン一つで、人生に幕引かれるんは。アタシでも…ソーダちゃんでも…絶対いやや」



「…私は、罪人になる気も罪人と付き合う気のどちらもありませんよ」

 


「ふふ。ソーダちゃん、罪を犯す可能性は万人に与えられているんや。そして救いの道もまた、万人に開かれている」



「…」



「美しい宝石は金持ちだけのもんとちゃうよ。貧しい人もちゃんと得られるもんや」



「…絵空事ですよ」



「ふふふ、それが体現されたのが我が国の法な訳やん?」






 ――ラピスラズリの法。



 それは罰と云う鉱物であり、救いと云う色彩である。




 end



色々賛否両論ありそな話ですみません(;^ω^)

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