漫画、猫人間暮らし。

猫の母娘(ちよ、くー)、ハムスターのひまわり、人間のふわふわしたコマ漫画です。あとイラストや雑記。人間が若干患いがちな為、字が読みづらいと言うことは平身低頭にてお詫び致します、、!

読む人なき遺書(恋文)※BL

第二次世界大戦時、ある特攻隊員が最期に書いた遺書。

宛名は親兄弟や妻子ではなく、彼が心から愛した、先に発つ同じ隊員です。








 改まって君に手紙をしたためるのは初めてだね。先に白状してしまうが、差し迫る事態による緊張のせいか、らしくもなく筆を持つ手が震えている。


 平素ならば、僕はもっと巧い字を書くのだけど。


 男の詰まらない見栄だが、これは念頭に置いて以下を読み進めて欲しい。



 今が危機迫る状態であるのは、語らずとも君の知るところである。君自身も同様だからね。


 この様な状況下、僕がこの時この文を何故に君に宛てたのか、君は大いに疑問に思うことだろう。


 父母や兄弟、何より妻子に最期の言葉を綴るべき今、僕の持つ筆は誤りばかりを記しているのか。



 …否。



 遺書というのは、想いを遺し伝える為にある。


 それならば、僕が送る相手はただ一人、君しかいない。


 僕の想いは僕と、そして君だけの物だから、…だから僕は、この手紙を君に書こうと思ったんだ。少しばかり長くなるが、どうか最後の一文字までこぼさず読んで貰えることを願う。

 


 さて、君は果たして僕との思い出をどれだけ覚えてくれているだろうか。


 無論僕は最初から最後まで、君との関係は残らず記憶している。


 始まり、君はやがて訪れる未来を感じさせぬ清々しい笑顔を称えていた。


 美しかった。…等と言うと、君はきっと顔を真っ赤にして怒ることだろう。


 君の表情は移り行く四季の如く留まることを知らず、くるりくるりと廻る。


 そんな君と一緒にいるのは、早足で一年を駈けている様で僕はとても楽しかった。


 春の新しさ、

 夏の眩しさ、

 秋の切なさ、

 冬の冷たさ。


 共に過ごした時間は僅かながらも濃厚で、僕は幸福が意味するところをこの身に実感することが出来た。


 決して信仰に篤い方ではない僕だが、君との巡り会わせは神のお導きに感謝したい。



 君との時間は、僕の精神世界を塗り替える劇的な変化をもたらした。


 僕が机上でしか理解していなかった感情を直に注入し、革新的でありながら保守性を帯び、そしてとても正直な反応をさせた。


 それは僕を多色で彩り、広く深く形を変えさせた。

 

 人は二度生まれるという。


 しかし、三度目の誕生も人によっては訪れる。


 人間としての始まり、自我の芽生え、ただ年輪を重ねただけでは得られない尊い命。



 僕は、君に新たに産み落としてもらったのだと思う。



 それ程に今の僕は前とはあまりにも違い過ぎて、自分自身この変わりように戸惑いを覚えている。


 でも、僕は今の僕がとても好きだ。


 君から生まれた僕は血の色さえ違う様に思える。この身に巡る血から何から、きっと君のそれと同じ、一滴の濁り無く鮮やかに染まってしまったのだろう。



 君が、僕を変えてくれた。



 …うん、遠回しな言い方をしても君に伝わらないのは僕が一番わかっている。


 しかし一応検閲が入るこの手紙へ、僕の想いを露骨に書き表す訳にはいかない。


何よりも、君が望まないのを知っている。


 君はこの―(※日本国)に侵されてはいるが、決して汚されてはいないと僕は思っている。


 だからこそ、君は質が悪いんだ。


 

 


 君の見つめる先にある赤く燃ゆる太陽、僕はどうしたってそれに勝つことが出来ない。


 絶大な武力、財力、権力、たとえ世界を掌握したとしても、君だけは僕の手のひらから零れ落ちてしまうことだろう。


 君が、真に望む物は何なのか。


 僕は暇さえあれば考えた。答えが僕の中には無いのは解っていても。


 君が今望む物は、僕は持ち合わせてはいない。とてもとても残念だけど。


 でも君は、僕の望む物その物を持っている。


 それは君しか持っていない物で、そして、君だけがその存在に気付いていない物だ。


 確かにそれは有るけれども、君が認識しない限りそれは誰かの物になることはなく、ただただ美しいまま朽ちるだろう。



 先に僕は言った。


『遺書とは想いを遺し伝える為にある』と。


 矛盾に聞こえるかもしれないが、君に僕の想いが伝わらなくても構わないと思う。遺書とは亡き人の一方通行な書き置きだから、故人の意向が通ればそれで完結する。


 僕のこれは特に、何かを望む文ではない。死んだ後まで地にしがみつき何かを欲しがるなど愚の極みだ。


 後は生きてる者が勝手に処理すればいい。


 命を手放した時点で、僕はあらゆるしがらみから解き放たれる。


 ならば何故、僕は遺書なんて虚しく賤しい紙切れを君に送るのか。

 


 答えは、本当はこれは『遺書』じゃないからだ。


 遺していく者達ではなく、宛てるべき君は、きっともうこの世には存在していないだろう。



 そして僕も、同じ道を辿る。



 あちらの君の住所が解ればいいんだけどね。生憎、情報収集に長けた僕も死後の世界までは手が回らない。


 …感情を押し殺すのは慣れていたはずなのに、今の僕はとても駄目だ。


 こんな紙にすら、全てを吐き出してしまいたくなる。


 目が、口が、指先が、君への想いを語りたくて語りたくてしょうがないと叫んでいる。




 今はまだ、

 口にしてはならない言葉がある。

 名付けてはならない感情がある。



 伝わらなくてもいい。

 だが、伝わるといい。


 君の世界に、届いて欲しい。


 そして、出来れば待っていて。


 もうすぐボクも、君の元に行く。



 ――おっと、せっかちな僕のことだ。


 手紙よりも先についてしまったら、その時はこの手紙は破り捨てて、真実を君に告げるよ。







 国境無き自由な世界で、僕は全てを、告白する。





文体も少し古めかしい感じにしてみました。自己満ですが、遺書(恋文)はナルシーの権化だとおもいます。


私は最期に遺書を書く相手がいるのかな。。

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